育む杜〜森一哉〜
2008 / file04
ボーイズマッチ
森 一哉
Mori, Kazuya
1974年4月17日生まれ、徳島県出身。
川崎フロンターレ創設時のメンバー。1999年からは指導者として第二の人生をスタート。
以来、小学生を対象にしたサッカースクールから、中学生を対象にしたU-15まで様々な年代を担当した育成のスペシャリスト。現在、U-13監督として、次世代のフロンターレ戦士育成に邁進する。
私は現在、U-13の監督をしています。
先月7月21日(祝)に、J1第18節のAWAY浦和レッズ戦において、その前座で、U-13同士のボーイズマッチが行われました。この一戦を通し、私は経験することの重要性を再認識する事になりました。
選手たちには、すでに5月頃に、このボーイズマッチの事は伝えてありました。初めて伝えたその日、歓声があがり、モチベーションが一気に高まり、目が輝いたのを覚えています。試合当日まで、選手たちの頭の中に常にあり続けたわけではないと思いますが、この日が近づくにつれ、試合の事をイメージすることにより、小さな気持ちの高ぶりは何度かあったと思います。
いざ当日、埼玉スタジアムの巨大さ、また、開門3時間以上も前から並ぶ、たくさんのフロンターレとレッズのサポーターの姿を実際に目の当たりにし、これまでの楽しみという気持ちに加え、不安と、よーしやってやるぞという、さまざまな感情が交錯する表情が見てとれました。
浦和レッズの運営の方に誘導され、スタジアムの中に入っていき、スーツを着たたくさんのスタッフの方とすれ違いながら、控え室までの廊下を歩いていきました。控え室の窓からは、たくさんの座席が目に入ってくる事で、これから本当に始まるんだ、という緊張感が高まってくるのが分かります。「いいねー!」「よっしゃー!」「うわー、どうしよう」など、いろんな声が聞こえてきます。普段通りの選手、ちょっと落ち着かない選手、早くボールを触りたがっている選手、動きが止まってしまっている選手など、いろんな姿がそこにはありました。
ウォーミングアップは、フロンターレのトップチームがこれから実際に使うウォーミングアップルームで、2チームの選手たちが共有する形で行いました。室内なので声がひびくため、互いの選手たちが、声の大きさをはりあっていました。声を積極的に出す事で、声とともに緊張感が吐き出されていくように、いつもの選手たちに戻っていきました。私としては、とにかくこの一戦を楽しんでほしかったので、少し安心した瞬間でした。
ウォーミングアップが終わり、ピッチ手前の階段下で入場を待ちます。見上げればすぐそこにピッチ。このあと実際にプロの選手たちが試合をするピッチがそこにはあり、選手たちの緊張感もさらに高まってきます。実は、ここまでで、何回もトイレに行っている選手もいます。また行くの?という選手もいて、やっぱり緊張しているんだと、いつもの練習試合とは違うんだなと思いました。
さあ入場です。階段を上がるとテレビカメラで撮影してくれていて、オーロラビジョンには、笑顔の選手たちが写っています。整列し、メインスタンドとバックスタンドに挨拶をし、審判団と、浦和レッズの選手たちに握手をしていきます。
そしていよいよ試合開始。ここから先は、実際に見られていた方はご存知だと思いますが、レッズペースで試合が進んでいきます。ピンチもたくさんありましたが、最後の最後で体を張って防ぐシーンや、シュートミスに助けられるシーンも多くありました。そんな中、サイドを突破されて決定的なピンチを防いだ所から、左サイドから中央、中央から右サイド、右サイドから中央と、5本のパスをつないで、相手ゴール前に迫り、シュートを決め、先制点をあげることが出来ました。非常にいい形だったと思います。しかし、その後も、レッズペースで試合が進んでいきます。なかなか自分たちのサッカーをさせてくれません。後半、ちょっとしたミスから失点してしまい、同点に追いつかれてしまいましたが、選手たちは集中を切らすことなく、最後まで良くがんばっていたと思います。
良いプレーには歓声があがり、拍手もしてくれる。しかし、イージーなミスや、ここぞという所でミスがあると、ため息がもれる。ピッチを囲む360度の観客席から、1プレーごとにいろんな反応が起こる。それは、プロの試合と何ら変わらない。
自分の知らないたくさんの人たちからの反応。1万人は入っていなかったと思いますが、普段、こんなにたくさんの人たちに自分のプレーを見られることはないし、いつもと変わらない自分のプレーに対し、スタジアム全体に響くような反応をされることもない。そこには明らかに、いつもとは違う空気がありました。純粋に、そのプレーが評価される。これからプロの試合を見ようとスタジアムに来ているたくさんの方が見ている中で、そこでは、子供だからすごいとか、子供だからしょうがないという目でプレーを見ているのではなく、子供でもいいプレーはいいプレーで反応があり、良くないプレーは良くないプレーで反応があり、1つ1つのプレーの楽しさと厳しさがそこにはありました。
ピッチを引き上げてくる選手たちの表情はさまざまです。笑った顔、悔しそうな顔、緊張感から開放され安堵した表情など、選手たちなりにいろいろ感じたようです。
試合が終わってから、試合の間ずっと応援してくれていたたくさんのサポーターの皆さんの所へ挨拶に行きました。「フロンターレ!!! フロンターレ!!!」と、ものすごく大きな声でエールを送っていただき、また、大きな拍手をいただき、勇気をもらいました。J1という厳しい舞台で戦っているトップの選手たちが常に、サポーターの皆さんに対してものすごく感謝しているという気持ちがすごくよく分かりました。ピッチから引き上げてきた時に、納得のいくプレーができずに浮かない顔をしていた選手であっても、この時ばかりは全員が顔を見合わせ、非常にいい笑顔になっていました。自分もいつかはこういう舞台で戦いたい、と思ったに違いありません。
こういった経験は、非常に大切だなと思いました。どれだけ日頃から言い続けたとしても、やはり、1度の経験には勝てません。Jリーグの前座で試合ができるという機会をつくっていただいた、浦和レッズの関係者の方々に、この場を借りてお礼を申し上げたいと思います。本当に、どうもありがとうございました。
また、もう1つ、この場をお借りして告知しておきたいことがあります。
9月20日(土) J1第25節 FC東京 戦が、HOME等々力で行われるのですが、その前座で、川崎フロンターレU-13とFC東京深川U-13のボーイズマッチが、17:10ころのキックオフで行われます。これについても、本当にありがたいことで、コーチとして、ものすごく感謝しています。
この試合において、浦和レッズ戦の時よりも、一段とたくましく成長した選手たちのプレーを、是非見に来ていただきたいと思っています。たくさんの人に見られ、応援され、いいプレーには歓声が上がり、拍手がおこり、逆に良くないプレーにはため息がもれる。こういった経験が、間違いなく選手たちを成長させてくれます。いいプレーが出来れば自信になり、いいプレーが出来なければ明日からまたしっかりがんばろうと思って取り組んでいける。今、U-13の選手たちは、浦和レッズ戦で感じた事を、実際に練習で生かすことが出来ていると思います。成長しています。時間がある人は、いや、時間を作って、是非9月20日(土)の17:10キックオフに間に合うように、等々力に足を運んでいただきたいと思います。また、U-13だけでなく、他のカテゴリーの試合にも、是非足を運んでいただきたいと思います。未来のトップチーム戦士を目指す選手たちにとって、非常に良い刺激になると思います。
2008年08月10日 森 一哉