Soma's Eye
2008 / file04
ベンチから見えるチーム力
相馬直樹
Soma,Naoki
清水東高、早稲田大学を経て1994年、鹿島アントラーズに加入。その後、2002年、東京ヴェルディ1969、2003年鹿島アントラーズを経て、2004年、川崎フロンターレに加入。豊富な経験値でJ1リーグ昇格を支え、2005年12月引退。現在、川崎フロンターレ・クラブアシストパートナー。
国際Aマッチ通算59試合4得点。1971年7月19日生まれ、静岡県出身。175cm、72kg。
先週(14日)のことになりますが、谷口(タニ)が北京オリンピック代表に選出されました。フロンターレでずっと結果を残しながらも、なかなかオリンピック代表ではチャンスをもらえない時期が続いていたのですが、選考レース終盤に来て一気に北京行きの切符をつかんでくれました。フロンターレにとって、これは本当にうれしいことですし、タニが北京で大暴れする姿を皆さんも期待しちゃいますよね。
僕も今回のオリンピックには、プレスとして現地へ行くことになっていますので、プレスとしてだけでなく、みんなを代表して応援してくることになります。そうした中で、自分のよく知っている選手がいるかどうかでだいぶ気分が違ってくるので、本当にタニが選ばれてくれて良かったです。もちろんタニがいると気軽に話しかけたりもできるだろうし、そういう面でも助かりますね。
タニも含めて反町ジャパンには大いに期待しているのですが、オリンピックという世界大会を迎えるにあたって、僕はサッカーの内容云々でなく、チームとして戦う姿を見せて欲しいと思っています。これはすなわち、どれだけチームとしてまとまるかということであり、いかに同じ目標を共有できるかということになるかと思います。
日本を代表してオリンピックに出場している選手たちが、まとまって戦えないはずがないと考える方も多いかと思いますが、現実には非常に難しいことなのです。思い返してもらえば、06年ドイツワールドカップでの日本代表にまとまりが無かったと感じた方も多かったでしょう。オリンピックにしても過去出場した大会では、そうした傾向が多分にあったと思います。僕自身の経験でも、フランスでの本大会は、その苦しみに苦しみ抜いた予選と比べると、そうしたチームのまとまりは落ちてしまっていたように感じました。
これには、チームとしての目標が個人の目標と一致するかどうかが大きく影響しているのではないかと思います。今回のオリンピック代表は、北京への切符をかなり苦しみながら獲得しました。なかなかチームのまとまりが感じられなかった予選序盤と比べると、サウジアラビアとの予選最終戦の戦いぶりは非常にたくましく、チームとしてまとまってきたなという印象がありました。これは、「どうしても予選を突破する」「北京に行きたい」という思いを、すべての代表選手が持っていたからこそで、チームも個人も「予選突破」が最大の目標になっていたわけです。
ですが、予選を突破して世界大会の本大会へと進むと、チームの目標が設定しづらくなります。実際に、もし監督が目標を「優勝だ」と提示しても選手は「現実的じゃないよ」と感じる可能性が高いし、グループリーグ突破という話になれば目標が小さい気がするしとなるわけです。それに加えて、選手にとって世界大会は、個人のアピールの場という意識も見られるでしょうから、チームとしてのベクトルを合わせるのが本当に難しいのです。
ただチームがまとまっていると言っても、何をもってまとまっているというのか、具体的にはわかりづらいことが多いかと思います。実際には、ピッチの中で声がよく出ていたり、ミスに対してのカバーが早かったりということに差が表れますし、基本的にはルーズボールへの反応が早い、攻守の切り替えが早いチームには、僕はチームとしてのまとまりがあると思っています。
ですが一番わかりやすいのは、実はベンチです。特に得点後のベンチの様子を見れば、チームの状態はよくわかります。先月行われたユーロ(欧州選手権)でも、優勝したスペインはもちろんのこと、ロシアやトルコなど躍進した国の得点後のベンチの喜びはすごかったですよね。過去の大きな大会でもダークホース的に躍進したチームには、必ずそういう姿が見られたと思います。
今回の北京では、日本は簡単ではないグループに入りました。ここから勝ち抜いていくには、チームが本当の意味でまとまって一枚岩になることです。ぜひタニのゴールでベンチが狂喜乱舞する姿を見たいし、たとえタニがピッチに立っていなくてもベンチで狂喜乱舞して欲しいですね。
2008年07月20日 相馬直樹