Tatsuru'sチェック!
2005 / file12
ドーピング!(後編
向島 建
Mukojima,Tatsuru
1966年1月9日静岡県生まれ。静岡学園高-国士館大-東芝を経て1992年清水エスパルス入団。1993年Jリーグオールスター戦出場。1997年川崎フロンターレへ移籍。以来2001年の引退まで要衝としてチームを支える。2002年から川崎フロンターレフロントスタッフ。2003年にはフットサル日本代表候補に選出。「SUKISUKI!フロンターレ(iTSCOM)」やサッカースクール・サッカー教室・講演・フットサル解説など川崎のサッカー伝道師として多方面で活躍中。
部屋に入るとドーピングドクターとドーピングコントロールコーディネーターがいて準備に追われている。たくさんの飲み物が用意され、テレビに映画のビデオテープまで置いてあった。自分の着替えはマネージャーが全部移してくれていた。まず、ストレッチをしてクールダウン。試合を勝利で終え、しかもVゴールを決めたため、チームメイトとは話が弾んだ。汗が引くのを待ってシャワーを浴び、尿が出るまでひたすらチームメイトと話しが続く。
私は出場前に水分を多めにとったことで比較的直ぐに検査できるような気がして、扉がないトイレに入りドーピングドクターが近くで監視する中、75ml以上の尿を採り終えた。採取した尿は直ちにボトルAとボトルBに50ml、25ml、に分けられる。採取後、しっかりと栓を閉め、選手の面前で発泡スチロールの箱に入れて封印する。ドーピングコントロールコーディネーターが「尿検査の登録」という書式に必要事項を記入、選手と付き添いのスタッフがそれを確認し、サインし終了する。
1994W杯アメリカ大会でアルゼンチン代表MFディエゴ・マラドーナ(当時33歳)が6月25日のナイジェリア戦後に検査を受けて陽性反応を示した。マラドーナは「市販の鼻炎薬を飲んだ」と弁明したが、興奮剤のエフェドリンを含む5種類の禁止薬物が検出。FIFAはディエゴ・マラドーナを大会終了まで出場停止とした。
欧州ではオランダ代表で当時セリエAのユベントスで活躍していたMFダビッツから筋肉増強剤のナンドトロンが検出され、4ヶ月間の出場停止処分となった。また、同じくオランダ代表で当時スペインリーグのバルセロナで活躍していたDFのF・デブールもドーピング疑惑で出場停止11週間。中心選手の2人を欠いたオランダ代表はW杯予選で敗退してしまった。
なぜドーピングはいけないのかというと、(1)「スポーツ固有の価値を損ねる」スポーツ固有の価値には、倫理観、フェアプレー、誠実、健康、優れた競技能力、人格と教育、喜びと楽しみ、チームワーク、献身と真摯な取り組み、規則・法則への敬意、自他への敬意、勇敢さ、共同体・連帯意識があげられ、これらの価値がスポーツの中で、またスポーツを通じて培われると期待されています。決して優れた競技能力だけに価値を認めているのではありません。良い成績を残したとしてもドーピングに手を染めた選手は絶対に認めてもらえません。(2)「ドーピングは社会悪になる」 ドーピングで勝利を得ることができるとすれば、それはルール違反を認めることになります。スポーツ自体の価値がなくなり、社会にも悪影響を与えます。特に一流選手には青少年に対する役割モデルが期待されます。選手がくすりを使って一流になっているとすれば、必ずそれをまねする青少年が出てきます。薬物乱用自体が違法行為であるだけに、くすり欲しさに犯罪にまで発展しかねません。(3)「ドーピングは選手の健康を害する」 ドーピングの代表的な方法はくすりを飲むことです。筋肉増強剤(正確には蛋白同化剤)や興奮剤ですが、摂取したくすりを早く体外に出すための利尿剤も禁止されています。これらは本来れっきとした「くすり」です。病気を治すために開発された薬剤なのですが、その効果を競技力向上に使うのがドーピングです。そして副作用という大きな問題があります。筋力や持久力など競技力向上につながる部分はあっても、その反面、身体への害も大きいのです。ドーピングが原因で選手生命どころか生命そのものを失ってしまったり、さまざまな後遺症に悩む例が数多く報告されているそうです。
サッカーをする理由は、好きだから!楽しいから!サッカーで自分を表現し、挑戦すること、チームの皆で協力してあげた得点や勝利は本当に価値があり喜びがあり、感動を味わうことが出来る。さまざまな理由でサッカーをするが、それは一定のルールがありフェアに行わなければならない。ルールが違ったり、フェアでなければサッカーの試合にはならないしスポーツの意味がない。サッカーに限らずスポーツの世界では、勝者・敗者関係なく最大限に力を発揮した選手やチームに対して感動させられ、温かい拍手が送られる。くすりに頼るのではなく限界に挑戦することが選手の姿である。そして、チームとしての選手管理も大事なことだが、選手としてただプレーするだけでなく、選手自身がドーピングを含め自己管理など様々な知識を持たなければならない。「くすり」は使い方を間違えれば「りすく」を生むのだから!
2005年05月03日 向島 建