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2005 / file15

小柄な選手の賢い術!

向島 建
Mukojima,Tatsuru

1966年1月9日静岡県生まれ。静岡学園高-国士館大-東芝を経て1992年清水エスパルス入団。1993年Jリーグオールスター戦出場。1997年川崎フロンターレへ移籍。以来2001年の引退まで要衝としてチームを支える。2002年から川崎フロンターレフロントスタッフ。2003年にはフットサル日本代表候補に選出。「SUKISUKI!フロンターレ(iTSCOM)」やサッカースクール・サッカー教室・講演・フットサル解説など川崎のサッカー伝道師として多方面で活躍中。

ボールが地面にあることの方がはるかに多いサッカーでは 「体格は関係ない!」、「サッカーは身体の大きさでは決まらない!」と、私は常に自分に言い聞かせプレーしてきた。それは実際に、ディエゴ・マラドーナ(アルゼンチン)、ロマーリオ(ブラジル)、トーマス・へスラー(ドイツ)、ロベルト・バッジオ(イタリア)らがピッチの上でメッセージのように示してくれていたからだ。大柄な選手たちをてんてこ舞いさせるプレーは見ていて気持ちがよく、私がプレーする上で自信を与えてくれたとともに、彼らのプレーから沢山のヒントを得ることができた。

私は現役時代、180cmを超える大柄なDFたちを相手にいつも戦ってきた。まともにぶつかったら当然吹っ飛ばされることは目に見えていてケガにもつながる。現に、元柏レイソルのブラジル人DFネルシーニョ選手にまともに挑んだとき、吹っ飛ばされ手首を脱臼(全治3ヶ月の重傷)、即病院に搬送され手術を余儀なくされた苦い思い出がある。そんな経験を繰り返し、大柄な選手たちとも対等に、いや対等以上に戦うためにも、もっと「賢い術!」を身につけていかなければならなかった。

小柄な選手は、自分を生かす努力が必要で、大柄な選手が敵わない何かを持っていれば十分戦えるはずだ。その何かは、ボールを運ぶ・止める・蹴るという技術的なことであったり、走るスピードがあったり、様々な状況での判断するスピードが速かったり、局面での発想や想像力が豊かだったりもするが、「賢さ!」というものがあってこそ高い技術などを発揮できると思う。例えば、守備をしているとき、自分のマークする相手は勿論ケアーする。しかし、ケアーしながらも 「この相手からできるだけ離れてやろう!」、「攻撃に切り替わったとき相手を混乱させてやろう!」と、いつも攻撃のことを考えながら準備しておくことも必要だ。味方選手がボールを奪った瞬間には、できるだけ相手から離れた有利なポジションでボールをもらったり、相手の裏のスペースに向かって既に飛び出している必要がある。相手のマークが離れていれば時間があり、大柄な選手に潰される心配もない。前を向いてプレーすることができれば自分の良さをもっともっと引き出せるかもしれない。

接近戦であれば、DFが激しくチャージできないペナルティエリア内が望ましい。よく観客からは「あいつ守備しないでサボってるよ!」と思われがちだが、全てが「サボってる!」わけではなく、攻撃のために中途半端なポジションをとったり、相手DFと駆け引きしたり、常に次の状況を予測し相手の隙を狙っていることもある。真面目にプレーする中にも、賢く自分を生かすことを常に考えていくことも大切である。

指導者の中には、小柄な選手に対して 「あたりが弱いなぁ!」と嘆いたり、我慢できなくメンバーから外したり 「もっと力をつけて対人に強くならないと!」など、強さには強さで対抗しようと思っている無責任でセンスが無い人がいる。勿論、対人に強くなるための努力はしなくてはいけないが、実際直ぐには効果は出ないし難しい。ならば、極端だがまともに大柄な相手に近づかなければいいだけの話だ。近づくことで自分の弱さを露呈することになる。身体の強い選手には、できるだけ身体の強い選手が対抗すればいい。テクニック・スピード・高さを兼ね備えた選手がいれば最強であり、それにこしたことはないが、そんな選手はそうたくさんはいない。日本の小柄な選手が、生まれつき優れた強靭な身体を持った海外の選手たちとまともにぶつかったら勝負は見えている。

体格差だけではなく、様々な部分で埋められないことは当然あるが、それは違う方法でクリアーできることがあるはずだ。フロンターレにも今野選手のように判断に優れ、気の利いたプレーができる、お手本のような選手がいる。小柄なら小柄なりに大柄な選手とぶつからない「賢い術!」を身につけていくことができれば、ピッチで自分の持ち味を十分発揮できるはずだ。
小柄な選手でも、きっと観客からは堂々とした大きな選手に映るに違いない。
サッカーは体格ではなく、いろんな人に可能性があり、夢のある面白いスポーツでなければいけないから…

2005年06月03日 向島 建

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