Tatsuru'sチェック!
2007 / file05
仮契約!
向島 建
Mukojima,Tatsuru
1966年1月9日静岡県生まれ。静岡学園高-国士館大-東芝を経て1992年清水エスパルス入団。1993年Jリーグオールスター戦出場。1997年川崎フロンターレへ移籍。以来2001年の引退まで要衝としてチームを支える。2002年から川崎フロンターレフロントスタッフ。2003年にはフットサル日本代表候補に選出。「SUKISUKI!フロンターレ(iTSCOM)」やサッカースクール・サッカー教室・講演・フットサル解説など川崎のサッカー伝道師として多方面で活躍中。
2007年12月6日(木)15:00駒澤大学玉川校舎にて菊地光将選手の仮契約が行われた。
大学サッカー界の中でも異例の8チームで争われた注目の菊地選手の争奪戦は、川崎を含め名古屋、磐田の3チームに絞られ、最終的に川崎に入団することが決定した。彼が川崎入りを決めた要因はいくつかあったと思われるが、一番の決めてとなったのは等々力での試合観戦が大きかったようだ。スタジアムを埋め尽くした沢山の青いサポーターたちが作り出した素晴らしいホームの雰囲気が本当に気に入ったのだろう、等々力で思う存分、力を発揮したいと思ったに違いない。
スカウトという仕事に携わるようになってからというもの、オファーを出している選手から「来季からフロンターレでお世話になります!」というありがたいお言葉を頂くと、喜び浮かれている暇はほとんどなく、慌しく日程を調整し仮契約を行い、正式に来期の入団内定まで確実に到達するための作業を行う。
基本的に仮契約の場には私たちスカウトも同席する。高校生、大学生の彼らが華やかながらも厳しいプロの世界に入ってくる記念すべき第一歩の日でもあるため、落ち度がないように入念に準備をする。この日は特に私自身も身が引き締まる思いだ。彼らには期待や不安など様々な思いがあるはずだが、この仮契約の席にはどちらかというと、いい緊張感がある。J1の舞台に向けこれから挑戦していく新たな決意と署名を交わす安堵感からか、とても明るい雰囲気が漂う。
彼らが仮契約書にペンを走らせる姿を見ていると、私はいつも感慨深くなる。この選手たちが試合に出場するのはいつ頃になるのか?フロンターレのユニフォームに身を包み、得意のプレーを披露する姿を想像する。サポーターたちが彼らに対して大きな声援を送ってくれる。将来、チームの中心選手として活躍してほしいと願う。
一方、これから大変な努力や苦労が付きまとうのも事実、高校生には大学という路もあったが、これで本当にプロの世界に入ることになり、もう戻れない。「本当にプロでやっていけるのか?大丈夫だろうか?いややらなければいけない、お前ならできるはず、大きなプレッシャーもかかるかもしれない、ケガなどしなければいいが…」と親のような感覚にさえさせられる。
実際に全ての選手が活躍できる保証もない、それがプロの世界だ。本当にこれからが勝負だ。そんな自分たちがスカウトとして声をかけてきた選手たちの仮契約の光景は、いつになっても忘れることはできないものである。この仮契約が全ての選手にとって人生の中で忘れられない意味のある通過点になってくれれば、こんなに喜ばしいことはない。
仮契約を済ませ、年が明け新たに本契約を交わしたときから、彼らは川崎フロンターレの一員として堂々と練習に励むことができる。いずれきっとピッチで活躍してくれるだろう選手たちの誕生である。1年でも長くフロンターレの選手としてサポーターに愛され、勝利に貢献してくれることを祈る。
現役引退後の2002年から約5年間、私自身がこれまでサッカーを通して経験し感じてきた様々なことを、この「Tatsuru's チェック!」で書かせていただきました。理解しづらい文章など多々あったかもしれないとは思いますが、それでも本当に多くの方々にご愛読いただきました。そして沢山の温かいご感想もいただけたことは、とても嬉しく思っています。
拙いながらも実際に自分自身の手で書き留めてきたことは本当によかったと、つくづく感じました。本当にありがとうございました。さてこのコラムですが、5年間を一区切りと考え一度リセットさせていただきます。今後は、今年新たにスタートしたオニ、ヤス、タマら若い連中に任せたいと思います。また、いつの日か皆さんのご要望があれば、今度はひょっとしたら「牛若丸 チェック?」という形ででも、自分自身が新たに感じたことを伝えられる日が来るかもしれません。その際は「Tatsuru'sチェック!」同様、温かい視点でお目通しいただければ幸いです。
これにからもスカウトとして皆さんに自信をもってご紹介できる選手を探しに全国を走り回ります。今後とも宜しくお願いいたします。
そして、未来ある選手たちにご声援を!
2007年12月21日 向島 建