ヤス、翔ける
2008 / file05
遊び心
長橋康弘
Nagahashi,Yasuhiro
東海大一中、静岡北高校、清水エスパルスと歩み、1997年、当時JFLに所属していた川崎フロンターレに加入。川崎フロンターレに所属して10年。ドリブル突破が魅力のクラブの歴史に残る右サイドの職人。現在、フロンターレ育成普及コーチとして子供たちの未来を背負う。
1975年8月2日生まれ、静岡県富士市出身。
サッカーの醍醐味とも言えるゴールの瞬間。
ここに至るまでには、さまざまな駆け引きがある。この駆け引きもまた見所のひとつだが、世界と比べると日本はまだまだ物足りない気がする。
ブラジルの選手や指導者がよく口にする「マリーシア」という言葉がある。
これは日本の「ずる賢さ」にあたる言葉らしく、日本人はどうもここが足りないようだ。ようするに駆け引きが足りないという意味だと感じているが、これにはいろいろな原因が考えられる。
その国の文化、環境、教育、歴史、生活習慣など、サッカーだけでは解決できない問題なのかもしれない。これは聞いた話だが、おつりを確認せず財布にしまうのは、日本人だけらしい。
つまり彼らは普段から駆け引きの中で生活をしている事が想像できる。しかし、だからといって無視するわけにはいかない。なぜなら勝負を左右する重要な要素の一つだし、そこにはサッカーの楽しさがたくさんつまっているからだ。
実際、敵を狙い通りにだませた瞬間は、最高の気分にさせてくれる。とても性格の悪い人間に思われてしまうだろうが…事実だ。
やはり駆け引きに勝つには、敵をだまさなければならない。左に蹴ると見せかけ、右に蹴ったり、走ると見せかけ、止まったり、パスと見せかけ、ドリブルをするなど、あらゆる場面で、たくさんのだまし合いがある。それがサッカーだ。
では、駆け引きが上手い選手とは、どのような選手なのか?今までに出会った選手を振り返ると、ある共通点が見えてくる。それは「遊び心」だ。この「遊び心」がある選手には、おもしろい発想(アイデア)をたくさん持っている選手が圧倒的に多い。そして一生懸命プレーする中にも、どこかに必ずゆとり(余裕)を持っている。日本では、常に100%全力で、真面目にプレーする事が、どこか素晴らしいとされているが、それだけでは敵をだませないし、駆け引きには勝てない。
こうした考え方は、良くも悪くも日本人の特徴なのかもしれない。サッカーが上達するためには、多くの苦しみに耐え、限界まで追い込まなければならないなど、どこか楽しんではいけないようなところがある。しかし、プロで活躍する多くの選手は、サッカーを心の底から楽しんできた奴らばかりだ。そして本当の意味で「楽しむ」事の難しさや、大切さを知っている。
サッカー選手を目指すみんなへ。
夢を叶えるためには、たくさんの困難がある。しかし、決して楽しむ事を忘れてはいけない。そしてサッカーにかける熱いハートと、ちょっとした「遊び心」が必要だ。
2008年11月10日 長橋康弘