MF16/大島僚太
テキスト/いしかわ ごう 写真:大堀 優(オフィシャル)
text by Ishikawa,Go photo by Ohori,Suguru (Official)
風間監督のもとで行われている川崎フロンターレのサッカーは、ボールスピードが早く、独特ともいえるテンポでパスが流れる。
このリズムに入っていけないものは、チームのセッションに加わることを許されない。
プロ入り4年目。若干21歳の大島僚太は、このサッカーの中盤で中村憲剛とともにハーモニーを奏でている。
「自分が思いついたプレーの中で、いつも一番難しいプレーを選択している」
イタリアの至宝・ロベルト・バッジョの名言だ。
サッカーは選択のスポーツである。90分間絶え間なく、瞬時の判断と決断が求められる。今季の大島僚太がサイドよりもボランチのポジションを好んでいるのも、その選択に楽しみがあるからだという。
「ボランチだと選択肢があり過ぎるぐらいじゃないですか。特にウチは味方が顔を出してボールを受けようとしてくれる。その中で自分がどれを選べるか。サイドだと、どうしても味方から回って来たボールをうまく流すようなイメージになるんです。ボランチは難しいですけど、自分が見えていればうまくできますから。それが楽しいですね」
例えば、長年サイドエリアを主戦場にする選手が、慣れないボランチに入ると、ピッチ上で恐怖すら覚えることがあるという。日頃、タッチラインを背にプレーしているサイドプレイヤーは、自分の背にするタッチラインの外側からボールを相手に狙われることなどない。フィールドの視界もほぼ180度に固定してプレーできる。
これがボランチになると、景色は一変する。中央に位置するポジションでは確保しなければならない視界は360度になり、ピッチ上では前後左右から敵からプレッシャーを受ける。サイドの選手にとって、この瞬間はときに恐怖になるわけだ。だが大島僚太は、そのシチュエーションにやりがいを見い出す。最終ラインからうまくボールを引き出す。パスをさばいて、相手のブロックのギャップにうまく顔を出す。味方と敵がひしめく中央の密集地帯も、168cmという小柄を駆使して、怖がらずにパスを受け続ける。無数にある選択肢の中から最善のプレーを見つけ、チームの潤滑油となっていく。それができるから、サイドにいるよりも真ん中でのプレーできるほうが楽しい。大島僚太の答えは、シンプルなのである。
2014年シーズンは、アジアチャンピオンズリーグからスタートした。ホーム・等々力競技場で迎えた中国の貴州人和戦。大島僚太はこのオープニングゲームの先発に名を連ね、ボランチで出場を果たしている。
試合はレナトが決めたフリーキックを守り切り、1-0で勝利。パウリーニョとのダブルボランチもまずまずの機能性を見せるなど及第点の出来だった。もちろん、反省点もある。流れの中から得点を奪えなかったこともあり、試合後は攻撃の組み立てについて言及した。
「もっと点が取れた試合だったと思います。中盤の選手がもっと攻撃に顔を出さないといけなかったですね。今日は後ろからのビルドアップに意識がいきすぎて、中盤から前に入っていくタイミングがあまり掴めなかった。相手は思ったほど球際に来なかったのでやりやすい相手でしたが、前に縦パスを入れることであったり、崩し方に工夫をしていかないといけなかった」
この試合では、パウリーニョとのビルドアップがスムーズにいかず、トップ下の中村憲剛が中盤に降りて組み立てに加勢する場面が散見された。その結果、前方でワントップの大久保嘉人がやや孤立してしまったのだ。攻撃のスイッチとなる縦パスもあまり入らず、前線の攻撃に厚みを加えるだけのサポートもできなかったのを大島自身も認識していたのは、コメントの通りである。
とはいえ、シーズン最初の公式戦で満点の出来を求めるのは酷というもの。コンビを組んでいるパウリーニョは新加入選手であり、チームの中でフィットするのに時間を要するのは当然でもある。これらの齟齬は、試合を重ねながら熟成させていけば良い。周囲の多くはそう評価していたと思うが、試合後のミックスゾーンであえて苦言を呈す選手がいた。大久保嘉人である。
「今日は味方が裏のスペースをあまり見れていなかった。リョウタにはいつも言っているけど、もっと俺にボールを当てて欲しかった。前に縦パスを入れないと相手は崩せない。中盤で前を向く回数が少なかったし、ボランチの二人もあまり前に出てこなかった」
日頃から歯に衣着せぬ発言で知られる大久保らしい言葉だ。その後の試合でも、大久保は「リョウタには『怖がらずに俺に縦パスを出せ』って言っている。出せないなら、(他の選手に)代われ」とまで発言している。一見、厳しい指摘に見えるが、それは大島に対する期待の現れでもある。大久保からの要求を大島自身は当時はどう受け止めていたのだろうか。
「パスを出せとはよく嘉人さんに言われましたが、そんなに思いつめることはなかったですね」
そう、こともなげに話していた。その口調からも、さほど深く気に留める出来事ではなかったようだった。
「もちろん嘉人さんはDFとの駆け引きで相手を外した瞬間にボールを受けようとしますよね。ただ、出し手の自分にも敵がいる状況なので、『今のは出せないよ』って思うこともあるし、『ワンタッチなら出せたな』と思うシーンもありました。そこで出せなかったら全てが悪いわけじゃないし、無理に出して相手に取られることもある。出してボールを取られるぐらいなら、そこで判断と選択を変えたほうが良いと思っていました。試合を上(スタンド)から見ていたコーチングスタッフからも『出せない状況もあるから、そんなに考えなくていいんじゃないか』と言われていました。その使い分けですよね」
与えられる局面の中で、どの選択が正しかったのか。たとえ大先輩に指摘されようとも、自分なりの立場で正解を判断していく姿勢を大島は磨き続けていたのである。
貴州人和戦から4日後には、Jリーグ開幕戦を迎えた。
この開幕戦で、昇格組であるヴィッセル神戸にロスタイムで失点して勝ち点3を取りこぼすと、チームの歯車が微妙に狂い出す。第2節のサンフレッチェ広島戦でもロスタイムに逆転ゴールを許して痛恨の敗戦を喫すると、ACLを含め、公式戦4試合連続でロスタイムに失点。なかでも第3節の大宮アルディージャ戦では終盤に3-2と逆転しながらも、そこから残り数分で信じられないような逆転負けを食らった。勝ちながら課題を消化していくはずが、逆に勝てない理由ばかりが浮かび上がって来る。ただ戦術面の具体的な修正を施そうにも、ACLと平行した連戦が続くため、とにかく試合間隔が短い。トレーニングは選手のコンディション調整がメインとなり、まとまった期間の練習ができない悪循環が続いた。
主力として試合に出ていた大島僚太は、チームの現状に対する責任を感じていた。ボランチにはポルトガル語で「ハンドル」という意味がある。中盤の底でゲームコントロールする役割であり、チームの舵取り役を求められるからだ。しかしチーム全体に不具合が生じているときは、ボランチが前の選手と後ろの選手からの板挟みにあうことも珍しくない。
「いろんな人から意見を言われて動いている部分はあったかもしれません。守備に関しては後ろの意見が第一優先になるので、少し下がって守っていたんです。でも前の選手からすれば、ボランチは前に出て来て欲しい。そこで食い違っているなぁ、と感じてました。お互いの気持ちがわかるので、難しいですよね。そこをどうひとつにするのか。ボランチは大事な仕事なんですよね」
そんな中、チームのターニングポイントとなった出来事がある。ショッキングな敗戦となった大宮戦後に遠征したACLのオーストラリアでのことだ。そのウェスタンシドニー・ワンダラーズ戦当日、チームのミーティングとは別に、キャプテンである中村憲剛、副キャプテンの田中裕介、西部洋平の呼びかけで、選手達だけでミーティングを開いて話し合いを行っている。
選手ミーティングでは、中村が場を仕切りしながら、田中が指名していく形式で、みなが抱えている思いをどんどん口にした。
「自分たちが目指しているところは間違いない」
「結果は出てないけど、自信を持ってやろう」
「こういう状況だけどネガティブに捉える必要はない。監督の言う通り、ブレずにやろうよ」
話し合いは総じて前向きなものだった。選手達はこれまで風間監督のもとで積み上げて来た「ボールを失わないサッカー」に手応えを感じている。だから、チームとしての方向性やスタイルを変更して勝つのではなく、これをより追求して結果につなげよう。選手の口からは、そんな声があがった。
そんな中、「このままで良いというのは少し違うんじゃないか」、「サッカー自体は間違っていない。でもうまくいっているということに対する過信はなくすべき」と指摘する選手達がいた。稲本潤一、西部洋平、中澤聡太といったベテラン陣である。「今まで通り、続けてやろう」という声が多い中、彼らはあえて「今まで以上にやらないといけない」とチームメートに訴えた。
このときの真意を西部洋平に聞いてみた。そのポジション柄、チームを最後尾から見守っている彼の指摘は、いつも冷静で的確だ。
「みんなの話を聞いていて、少し目的を取り違えてるかもしれないと感じた。もちろん、このサッカーをやる上で、パスを回すことであったり、ボールを奪われないことは大事なんです。でも奇麗なサッカーをやろうとしていて、球際の戦いが少しフワフワしていた。試合をする上では、テンションをあげて、気持ちを出して戦うことも同じぐらい大事じゃないですか。そのベースとして、なくてはいけない根本が抜け落ちている感じがしたんですよね。そこで、みんながピッチ上の問題を口にしていたので、自分はメンタルところを言おうと思った」
こうしたベテラン陣の言葉は、チーム全員に何かを気づかせた。
ちなみに大島というと、「リョータ、何かあるでしょ?」と中村に発言を促されて、とっさに「いや、ないです」と答えている。あまりに予想通りの回答に、そう答える大島の姿が容易に目に浮かんだには、自分だけではないだろう。参考までに、以下は本人の弁明である。
「いろいろな意見が言い尽くした最後のほうで、憲剛さんに振られたんですよ。みんな良いことを言っていたので、そこで自分が同じことを言っても…同じことでも憲剛さんが言えば説得力が違いますよね(笑)。でも、みんなが思っていることは一緒だったんだとわかりました。球際の部分を全員で戦うべきと、ベテランの方が言ってくれて…あれはみんなの心に響いたと思います」
こうした話を踏まえた上で、「チームで戦おう」ということを最後にあらためて味方に訴えたのがキャプテンの中村憲剛だった。なぜ、それを強調したのか。本人が明かす。
「その前だって、決してチームじゃなかったわけではないんですよ。でも前の選手は前の選手、後ろの選手は後ろの選手というような空気がどこかに流れていた。やるべきことはやってはいたけど、あまり一体にはなっていなかったのかもしれない。自分がボランチに入ったことで、それをより感じたんですよね。だから『そこは、チームでやろうよ』っていう話をみんなにしました」
実はACL第2節となる蔚山現代戦で、中村はこれまでのトップ下からボランチのポジションに変えてプレーをしていた。このとき、ボランチに入ったことで、チーム全体が前の選手と後の選手で分断されているような違和感を覚えたのだという。大島が中盤の板挟みにあっていた理由も、まさにそこだった。その解消のために、中村は「チームとして戦おう」という一体感を求めたのだ。
選手個人がいつも以上に本気で戦う。しかもそれをチーム一体になってやる。言われてみると当たり前のことだが、シーズン序盤はそれができていなかった。だがオーストラリアから帰国して臨んだFC東京との多摩川クラシコで、選手達はその姿勢を全力で見せた。中三日のタフなスケジュールだったが、選手個人が自分のタスクをいつも以上の責任を持って徹底した。
例えば、ボールを持った時。パスを出したら、ボールホルダーのためにボールを受けられるポジショニングに顔を出して味方のパスコースを作る。ボールを大事に保持するための「出して、動く」をピッチ上の11人全員がやり続けた。
例えば、ボールを奪われた時。ボールロストした次の瞬間、前線の選手達は必死の形相で奪い返しに奔走した。攻守の切り替えと帰陣の早さ、そしてなによりも球際での強さ。これまでにない戦いぶりで、終わってみれば4対0で大勝。今シーズンリーグ初勝利をあげた。あの試合後の田中裕介の充実した表情が印象的だ。
「これまではアンラッキーな部分で負けていたかもしれないけど、一人一人に意識の甘さがあったのかもしれない。今日はみんながそこのタスクもこなしていた。そして選手同士で掛け合う声も今日はプラスの言葉が多かった。キツイ時間帯も味方を鼓舞するような声だったし、全員が同じ方向を向いてやれていたと思う」
こうして噛み合い出したチームの快進撃が始まった。
続く第5節の名古屋グランパス戦では、パスワークで相手を圧倒し、美しく、強いサッカーを披露。クラブのJ1通算1000ゴール目を記録した大久保嘉人の決勝弾は、チームで28本のパスをつないでゴールネットを揺らした。そしてこのとき、パスをつないでいる中で攻撃のスイッチを入れたのが、大島の選択した縦パスだった。ジェシから中央でボールを受けると、近くにいた中村ではなく、抜け出す小林悠を見て素早く前に預けた。
「最初は、憲剛さんに出そうとしたんですよ。ただ悠さんがタイミングよく動いてくれました」
この縦パスの選択で、大島が攻撃のスイッチを入れると、これをゴール前に侵入した小林、中村とつなぎ、最後は大久保が鮮やかに決めてみせた。チームの美しいパスワークには中村憲剛と大島僚太のダブルボランチの存在が欠かせぬものとなり始めていた。
その三日後、等々力で行われたACLのウェスタンシドニー・ワンダラーズ戦では、大島が大きな仕事をやってのける。1-1で迎えた試合終了間際の後半43分、決勝点となる劇的なミドルシュートを決めたのだ。あの場面、中盤で大久保嘉人からパスを受けてからの判断を、こう振り返る。
「相手が嘉人さんに食いついた瞬間、前が空くと思ったんですよね。そして、その瞬間に憲剛さんが、バーッと走った。最初はどこかに出せと要求しているのかな、と思ったんです。でもわからなかったので、自分でボールを持ち出しました」
大島がボールを受けると、前方に居た中村憲剛がゴール前へのフリーランニングを行った。さらに、これまでジャブのように出し続けて来た大島の縦パスを警戒したのか、相手の守備陣はやや後ろに下がって対応しようとした。大島はその瞬間を見逃さなかった。軽いステップから力強く踏み込んでから、右足を振り抜く。
「自分がボールを持ち出したときに、GKが少しだけ動いたのがわかりました。GKに弾かれてもいいので、枠には飛ばそうと思ってコースを狙いました。キーパーが飛んだぐらいまでは見えたのですが、ちゃんと入ったかどうかまでは最初はわからなかった。ただネットが揺れたのは見えましたし、サポーターの歓声で『よっしゃー!』と思いました」
ゴールが決まると、普段はシャイで控えめな大島も、全身で喜びを表現していた。
試合後はサポーターからの祝福を受けるため、Gゾーンのお立ち台に招かれている。トラメガでの挨拶とともに、選手自らが自身のチャントの唄い出しをリードして音頭をとるのが”儀式”となっているが、挨拶だけでいったんは逃走。しかしチームメートの輪に戻ろうとしたところをジェシに阻まれ、再びお立ち台に連れ戻されている。結局、「オ・オ・シ・マ・リョーター」のリードだけを唄って許してもらった。
サポーターが作ってくれた応援歌、気に入っているんです。チームメイトも歌ってくれます。でも・・・歌詞の「笑顔がキュート」を自分で唄うのが恥ずかしいんですよね。サポーターの応援にはいつも本当に感謝してます。これからも活躍したい。等々力でみんなと一体になって喜びを分かち合いたいですね」
3月、4月、5月。
この約3ヶ月で公式戦21試合を消化するタフな日程だったが、大島僚太はそのうちの18試合に出場した。日に日にチームの中で増していく存在感と成長スピードには、最後尾から見守っている西部洋平も舌を巻いている。
「試合をこなすようになってから恐ろしいぐらい成長してますよね。ケンゴがリズムを作れないときは、リョウタがリズムを作っているぐらい。たぶん、アイツもやろうとしているし、前を狙うようになっている。例えば甲府戦は、ミスしてもいいから前に出そうという意図が見えた。ミスしても続けてやればいいと思うんですよ。ホント、今年に入って急成長しています」
西部が例に挙げた第11節のヴァンフォーレ甲府戦では、中村憲剛が欠場したため、大島が中盤をけん引した。前半には、抜け出した大久保嘉人に向けて、見事な縦パスを通す決定機を演出している。GKの股間を抜いた大久保のシュートは脚の内側に当たってわずかにゴールマウスをそれたが、中村不在を感じさせないラストパスの配給で周囲を驚かせた。シーズン序盤に厳しい要求を続けていた大久保嘉人も、大島の成長をしっかりと評価している。その試合の前にはこんな風に褒め称えているからだ。
「リョウタはだいぶ良くなっているよ。だって、横パスがほとんどなくなったじゃない? 前に付けてくれるので、こっちとしてもリズムを作りやすい。常に前を向いているし、ボールを奪われても自分で追いかけている。チームに欠かせない選手になってきたよ」
ここの裏表のなさが、大久保の良さでもある。
第13節の鹿島アントラーズ戦では、開始早々に大久保嘉人の足元に向けて、強引とも言える縦パスを大島が配給している。あそこに縦パスを出せる判断を下すのは、決して簡単な選択ではなかったはずである。「少し浮いてしまいましたが…」とパス精度を反省するが、それでも大久保がコントロールして前を向いたことで攻撃のスイッチが入り、小林悠の美しい先制点につながった。「強引でもいいから攻撃のスイッチになる縦パスを入れる」という意識が高まっていることがわかる1シーンだった。
こうした選択の変化を、大島本人はどう捉えているのか。
「難しい選択をしているかというと、そうではないとも思ってます。でも難しい選択肢も見えるようになってきたのは確かですね。自分の中でも、そこは大丈夫と思って挑戦するようにしています。でも、最後の方は、縦パスを狙い過ぎてました。風間監督からは、もっと『遊びのパス』というか、横パスを入れて相手を食いつかせる駆け引きを意識するように言われています」
シーズン序盤、大久保嘉人から「前にボールを出せ」と言われ続けていた若武者は、約3ヶ月でここまで変貌を遂げたのである。
最後に、やはり中村憲剛の証言抜きにこの原稿は終われないだろう。今季、ボランチの相棒として組んできた大島僚太の変化を、隣でどう感じているのか。プレーの判断、選択についての要求を聞くと、中村は率直に述べてくれた。
「良くなっているけど、『もっと出せるだろ?』と言っています。ボールを持ったときに、もっと怖いボールを出せるような視野の確保、ポジショニングがあるので、そのための選択肢を常に準備しておけ、と。近くのエリアしか見ていないと、その世界でサッカーが終わってしまうからね。昔は自分がボールを持つことで精一杯だったけど、もうそれはないし、プレッシャーがかかっても怖がらなくなった。だから、あとは相手を怖がらせること。俺も決定的なパスを出すけど、リョウタも出さないとダメ。パスは質も高いんだから、あとはその本数を多くして、それをミスらないこと。まだたまに安全なプレーをしている試合があるけど、そこは経験かな」
そして、こう付け加えた。
「俺が21歳のときの30倍は上手いけどね。でも要求はするよ。もっと高みに行って欲しいから」
──もっと高みに。
この6月、ブラジルでワールドカップが開催されるが、2年後に控えているリオデジャネイロ・オリンピック、2018年のロシア・ワールドカップは、大島僚太にとって決して遠い目標ではないはずである。もっとも、そこに対する思いを聞いても、返って来るのはつれない返事だ。
「五輪のことは、何らかしら考えているのかなと自分でも思いますが、頭の中には本当に何もないんですよ。もともと、きっちり目標設定をするほうではないので、先のことはあまり考えていないですよ。昔から計画を立てるのが苦手で、夏休みの宿題も最後にまとめてやってたタイプでしたから」
そう、あっけらかんと笑うが、「でも日本代表になりたいとは漠然と思ってます」とも口にする。そのためには、フロンターレで試合に出続けることが最優先だ。「これで一区切りになりますが、また再開後も試合に出られるようにまたゼロからアピールしていけないといけないですね」と、7月のリーグ再開をしっかりと見据えている。
もっと向こう側にいくために。
キュートな笑顔を見せる小さな巨人は、力強く未来へと歩み始めている。
豊富な運動量で中盤を駆け回り、華麗なテクニックで相手をかわしチャンスを演出するMF。2016年リオデジャネイロ五輪を目指すU-21日本代表にも招集されるなど、次世代の日の丸を背負うだけのポテンシャルを秘めている。
1993年1月23日
静岡県静岡市生まれ
ニックネーム:りょうた